放鷹義塾

放鷹義塾オフィシャルサイト

鷹で獲物を捕らえるということ

神様との契約で、人間が動物を支配してよいことになっている西欧では、狩猟に対してあまり抵抗はないかもしれませんが、人が死ねば神様や仏様になる日本では、動物の命を奪うことに対してかなりの抵抗があり、狩猟をスポーツとは簡単には言い切れません。
また、食育という教育の場で、いただきますは命をいただくのだと教えていますが、肉の塊になるまでには、いただきますと簡単に言って許されるには余りある、様々な事があってそうなっています。

19世紀の後半、イギリスの人類学者E,Bタイラーが著書「原始文化」の中で使用、定着させたアミニズムの概念では生物、無機物を問わず全てのものに霊魂や精霊が宿っているとされており、日本語では「汎霊説」「精霊信仰」と訳されています。
これはアフリカやアマゾンの奥地に行ってもそうですし、日本古来の考え方でもあります。先進国の中では日本が唯一この考えを現代にも通じています。

聖徳太子の時代に仏教が日本に伝来して教えが広まりました。
その中に「五戒」があります。
「五戒」は在家信者が守らなければならない戒めで、そのひとつに「不殺生戒」というものがあります。

生き物を殺してはいけないという、「不殺生戒」を守ることと、人間が命を繋ぐために食べることの両立、慈悲と殺生との両立をどのようにしてきたのか。
食料の有り余る現代の日本において、ほとんどの人が気にも留めてないかもしれない、人間が食べる動物の生命に対する考え方について、中世に諏訪大社で行われていた贄鷹祭(にえたかさい)と共に考えていきたいと思います。

鷹狩りの歴史

鷹狩りは今から4000年以上昔に中央アジアで発祥したといわれています。
日本書紀によれば、西暦355年に朝鮮半島から渡来した「酒の君」が鷹を仕込み、現在の大阪、百舌野(モズノ)で仁徳天皇が鷹狩りをしたとされているそうです。
その後、兼光(やはり渡来人であろうと思われ、諸説があります)という鷹匠に仁徳天皇は呉竹という女を嫁がせます。
兼光はやがて日本を後にし、本国へ帰るのですが、鷹匠の技は呉竹が受け継ぎました。
呉竹には朱光という娘がおり、その婿となった源政頼(みなもとのせいらい)に技が受け継がれました。
このことから、日本の鷹匠の源流が呉竹流、政頼流といわれているそうです。(いずれも出生や表記に諸説あるそうです。)
 鷹狩りには天皇の側近である公家の鷹狩りと、武家の鷹狩りがありましたが、許されて初めてできることなので、誰でもできるというわけには行きませんでした。

贄鷹祭と諏訪流

戦の神様、狩猟の神様として奉られる信州諏訪大社では、御射山祭の一環として、贄鷹祭が行われていたと聞きます。
御射山祭では巻き狩りで鹿を追い込み、捕らえ、鹿の首を並べて神様に奉納します。
すると、神様から鹿喰箸(かじきばし)や鹿喰免(かじきめん)という御札がでて、それを持っている人は四足を(四本足の動物、獣のこと)食べても良いとされていました。
 贄鷹祭では鷹を使って獲物を捕らえ(キジ)、神様に奉納します。するとやはり鳥を食べても良い御札がでたそうです。
それらのお札や箸を持っている人は肉を食べることが許されました。
酒の君に始まり、呉竹流、政頼流から受け継がれた日本の鷹狩りの技で贄鷹祭の神事が執り行われていたそうです。
 現在の諏訪流の起源は、この神事にあります。
鷹を扱う技とは別に、神事を執り行う精神性がきわめて重要でした。
現在の長野県東御市の祢津地区に、その昔勢力があった滋野一族の祢津家が鷹匠集団であり、代々祢津神平を名乗り、諏訪で贄鷹祭を行っていたということで、鷹匠の技については祢津流が諏訪流の源と考える方も多いようです。

諏訪流の精神性

①神事の由来

その昔、諏訪地方のお百姓さんは、穀物を鳥が食べに来るので困っていたそうです。
あるとき、それを見た四仏(四人の仏)が鷹の姿になって害鳥を追い払ったそうです。
そのことから、鷹は四仏の遣いとされていました。
さて、贄鷹祭では鷹匠が鷹を使って獲物を捕らえるのですが、その鷹は四仏(または四仏の使い)であるということが重要な事柄です。
人間が獲物を捕らえるのではなくて、鷹に捕らえさせる必要がありました。
中世の鷹狩りにまつわる書物の中には、鷹はキジの魂を追いかけていると思わせる記述もあります。
四仏の使いである鷹がキジの魂を追いかけ捕らえる。
抜け殻の肉は、人間が肉を食べていいという儀式のために使用された。と考えられます。
このような儀式を行うということは、やはり人間が他の動物の命を奪うということに罪悪感があったからだと考えています。
日本に仏教が伝来し、殺生は良くない事だと誰もが思っていたでしょう。
しかし自然界では当然のごとく食物連鎖があり、肉食の動物は他の動物の命を食べて生きながらえます。
また、先ほど述べたように「不殺生と人間が命を繋ぐために食べることの両立」の折り合いをつけるため、このように贄鷹祭を行うことによって、神仏に許してもらって肉を食するということが行われました。
※食べるもののなかった時代と違い、現代では厳密に言えば人間にとって肉は嗜好品であり、食べなくても生きていけます。しかし長生きすることはできないようです。
ベジタリアンが菜食主義をやめる原因の一番は健康状態の悪化から、お医者さんに肉も食べるようにと勧められることです。
菜食主義を徹底すればするほど、菜食主義が困難になるというように人間の体ができているようです。

②諏訪から受け継がれる精神性

諏訪大社での贄鷹祭とは別に、武家が至るところで鷹狩りをするようになります。
諏訪流の始祖は小林家次といわれています。
聞いた話によると、織田信長が鷹狩りを天皇に許されて自分の鷹をつくる鷹匠を探し、当時諏訪で贄鷹祭を行っていた鷹匠の小林家から、小林家次を召抱えました。
小林家次は後に家鷹の名を許され小林家鷹と名乗ります。
小林家鷹は信長の後、豊臣秀吉、徳川家康と主君を替えますが、小林家は徳川時代をこえ、大政奉還後の明治時代を経て、昭和まで続きます。
江戸時代はまさに鷹匠の流派がいくつもでき、武家の嗜みといわれるほど鷹狩りが盛んな時期がありました。
江戸時代、幕藩体制が確固たるものになると、武家の付き合いの中に鷹が欠くことのできない存在となり、各藩の殿様とその長男に狩が許されました。(公家にも武家にも、鷹の飼い方や仕込みの仕方について記された、秘伝の○○家鷹書なるものが存在しました。)

この時代の話はいずれ機会があったらということで。

 鷹匠が仕込み、殿様が手から放った鷹は獲物を捕らえます。鷹が捕らえたキジは鷹匠が止めさしをします。(とめさしとは狩猟用語で罠にかかった動物のとどめを刺すことをいいます)
このときに鷹匠は策(ブチ)を使用します。
※策は藤蔓を使って作ります。秋も深まり、葉が全部落ちてからまっすぐで1~1.5cmほどの直径の蔓を選びます。表皮を削り緑の薄皮を残します。緑色の状態のほうが後で黄色になります。根元に近い方を尖らし、他方を房状に作ります。
房の元には赤い紐を巻きつけます。
この策は普段は尖らした方で羽繕いをしたり、房の方で嘴についた食べかすの掃除をしたりします。鷹が自分で嘴を掃除するように躾けます。
策はお釈迦様が持つ錫杖を連想させます。
錫杖は魔を祓う意味がありますが、策は引導を渡す意味合いが強いと考えています。
策が鷹に捕らえられたキジの、現世と来世の間を司っていると私は考えています。
※鷹狩りをする高貴な方が直接獲物の命を奪うことはなく、獲物を掴んだ鷹を据え揚げに行く立場上、鷹匠が獲物に引導を渡していたと考えられます。
諏訪大社の神事とは別のところで、別の意味を持った鷹狩りですが、捕らえて獲物に引導をわたすことになる鷹匠は諏訪の勘文を唱え、魂の安息を願います。

③諏訪の勘文

「ごうじんうじょう すいほうふじょう こしゅくじんしん どうしょうぶっか」
捕らえられた動物の今まで生きてきた命が、生きてきた証が尽きたならば、それは広い意味での食物連鎖の中でどうしようもないことである。
しかしその肉は人間が命を繋ぎ、明日を生きるための血となり肉となる。
人間に食されることによって、魂は人間に宿り、やがて、人間が死んで成仏するときに仏様の所に連れていく。と、解説されています。

※この考えには、成仏できるのは人間のみであり、動物は成仏できないので、食べた人間がそれによって命を繋ぎ、善行を行って、仏様の所に行くときに一緒に連れて行くということがこめられています。
なぜ動物が成仏できないかというと、畜生道に落ちたものが動物であり、輪廻転生を繰り返し、よほどのことがないと人間には生まれ変わることが困難であると考えられていました。
動物の命を奪うことの後ろめたさは誰にでもあるがあるが、人間が生きていくために食すというために、慈悲と殺生との両立を考えていたのではないかと、思います。
現代においても私たち諏訪流の流れを汲むものの中には、諏訪の勘文は生きており、狩場で策を使用するときに唱えることがあります。

長い話になりましたが、人が家畜の肉や動物の肉を食するために、その動物の魂の行き場を考えて儀式をするというのは、日本の古くからの慣わしで、私たちが毎日摂る食事も、単にいただきますという言葉だけではすみそうもない大きな事柄が「いただきます」の言葉に内包されております。
現代社会では食育という教育の場で「いただきますは命をいただいているのですよ」と教えていますが、もう一歩踏み込んで、命をいただいている意味を、考える機会を作っていただきたいと思います。

わかりにくい部分や歴史、宗教観などお気づきの点等ご容赦願います。
(このお話は続きます)

関連記事